遺留分が侵害されたときにどうすれば取り返すことができるのか

1.遺留分侵害額の計算と減殺請求

(1)基本的計算式

◆遺留分の侵害額は、遺留分額から、遺留分権利者が相続によって得た財産額を控除し、その者の負担する相続債務額を加算して算定する。(最判平8・11・26)

遺留分侵害額=

 遺留分額-(相続によって得た財産額-相続債務分担額)-(特別受益の受贈額+遺贈額)

※かっこを外すと

遺留分侵害額=遺留分額-相続によって得た財産額-特別受益の受贈額-遺贈額+相続債務分担額

(2)減殺順序

遺贈又は贈与の減殺請求
第千三十一条  遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するのに必要な限度で、遺贈及び前条に規定する贈与の減殺を請求することができる。

贈与と遺贈の減殺の順序
第千三十三条  贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、減殺することができない。

遺贈の減殺の割合
第千三十四条  遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

贈与の減殺の順序
第千三十五条  贈与の減殺は、後の贈与から順次前の贈与に対してする。

※死因贈与があるときは、遺贈⇒死因贈与⇒贈与の順になる。

※遺留分権利者は減殺すべき物件の選択権がない結果、共有関係になる。

※共同相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合には、その遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、減殺請求の対象になる。(最判平10・2・26)

(3)相続分の指定等は減殺請求の対象になるのか

民法では、減殺請求の対象が遺贈と贈与のみであるが、相続分の指定、特別受益の持ち戻しの免除、遺産分割方法の指定、共同相続人間の担保責任の免除等の時は減殺請求は可能であろうか。

◆最判平成24年1月26日の考え
「遺留分減殺請求により相続分の指定が減殺された場合には,遺留分割合を超える相続分を指定された相続人の指定相続分が,その遺留分割合を超える部分の割合に応じて修正される。特別受益に当たる贈与についてされた当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の被相続人の意思表示が遺留分減殺請求により減殺された場合,当該贈与に係る財産の価額は,上記意思表示が遺留分を侵害する限度で,遺留分権利者である相続人の相続分に加算され,当該贈与を受けた相続人の相続分から控除される。」

2.遺留分減殺請求権の行使と効果

(1)請求者

遺留分権者とその承継人(包括承継人である相続人・包括受遺者・相続分の譲受人・各贈与や遺贈に対する個別の減殺請求権の譲受人)

◆遺留分減殺請求権は、行使上の一身専属性を有するから、遺留分権利者が、これを第三者に譲渡するなど、権利行使の確定的意思を有することを外部に表明したと認められる特段の事情がある場合を除き、債権者代位権の目的とすることはできない。(最判平13・11・22)

(2)相手方

減殺対象の遺贈・贈与の受遺者・受贈者およびその包括承継人である。悪意の特定譲受人も含む(1040条)。

(3)遺留分減殺請求の行使方法

行使は、減殺の対象を明示して遺留分権に基づくものであることを裁判外で示すことでたりる。

◆被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合に、遺留分減殺請求権を有する相続人が、遺贈の効力を争うことなく、遺産分割協議の申入れをしたときは、特段の事情のない限り、その申入れには遺留分減殺の意思表示が含まれると解すべきである。(最判平10・6・11)

(4)遺留分減殺請求の効力

◆遺留分権利者が本条に基づいて行う減殺請求権は形成権であって、その権利の行使は受贈者または受遺者に対する意思表示によってなせば足り、必ずしも裁判上の請求による必要はなく、いったん、その意思表示がなされた以上、法律上当然に減殺の効力を生ずる。(最判昭41・7・14)

この物件的効果説の下では、遺留分請求権者は、贈与や遺贈が未履行の時は履行義務を免れる。すでに履行されていれば返還請求が可能である。共有関係に立つが、受遺者などは価額弁償も可能である(1041条)。

◆受贈者に対し減殺の請求をしたときは、その後受贈者から贈与の目的物を譲り受けた者に対して、さらに減殺の請求をすることはできない。また、減殺請求権の行使の結果の共有持分についての登記を経ていないときは対抗できない(最判昭35・7・19民集14-9-1779)。疑似的二重譲渡関係

受贈者による果実の返還
第千三十六条  受贈者は、その返還すべき財産のほか、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。
⇒相続時からでなくてよい。

(5)価額弁償

・目的物の譲渡の場合

受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等
第千四十条  減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2  前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。

⇒この条文は受遺者にも類推適用される。

◆遺留分減殺請求を受けるよりも前に遺贈の目的を譲渡した受遺者が遺留分権利者に対して価額弁償すべき額は、譲渡の価額がその当時において客観的に相当と認められるときは、その価額を基準として算定する。(最判平10・3・10民集52-2-319)

現物返還に代わる価額弁償

遺留分権利者に対する価額による弁償
第千四十一条  受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2  前項の規定は、前条第一項ただし書の場合について準用する。

◆受贈者または受遺者は、本条一項に基づき、減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産について、価額を弁償して、その返還を免れることができる。(最判平12・7・11民集54-6-1886)

◆遺留分権利者が受贈者または受遺者に対し本条一項の価額弁償を請求する訴訟における贈与または遺贈の目的物の価額算定の基準時は、右訴訟の事実審口頭弁論終結の時である。(最判昭51・8・30民集30-7-768)

◆特定物の遺贈につき履行がされた場合、本条の規定により受遺者が遺贈の目的の返還義務を免れるためには、価額の弁償を現実に履行するかまたはその履行の提供をしなければならず、価額の弁償をすべき旨の意思表示をしただけでは足りない。(最判昭54・7・10民集33-5-562)

◆遺留分減殺請求を受けた受遺者が価額弁償する旨の意思表示をし、遺留分権利者が受遺者に対して価額弁償請求権を行使する旨の意思表示をした場合には、その時点において、当該遺留分権利者は、遺留分減殺によって取得した目的物の所有権および所有権に基づく現物返還請求権をさかのぼって失い、これに代わる価額弁償請求権を確定的に取得する。価額弁償請求に係る遅延損害金の起算日は、受遺者に対し弁償金の支払いを請求した日の翌日になる。(最判平20・1・24民集62-1-63)

 

(6)遺留分減殺請求権行使後の権利義務関係

遺留分減殺請求権行使の結果、遺留分権利者には相続財産から離れた権利が帰属し、不動産であれば共有持分の移転登記請求も可能になり、その共有関係は民法256条以下の共有関係の解消になり、遺産分割審判でなく遺産分割訴訟になろう。

もっとも、判例・実務では、民法の定める現物分割か競売による換価分割のみでなく、一括分割、価額の賠償、一部分割、共有者の一部の者には現物で他の者は金銭のみを割り当てる全面的価額賠償も認めた柔軟なものになっている。

共有物の分割請求
第二百五十六条  各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。…
裁判による共有物の分割
第二百五十八条  共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2  前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

しかし、割合的包括遺贈、相続分の指定、相続分の指定を伴う遺産分割方法の指定、割合的「相続させる」旨の遺言では、特定の財産が受益相続人に帰属しているわけではないから、遺産分割手続きになろう。

なお、寄与分は、遺産分割の場合と死後認知を受けた相続人の価額支払い請求に限定しているので(904条の2)、遺留分算定の基礎とはしておらず(1029,1044条)、抗弁できない。

(7)遺留分減殺請求権行使制限

・時効で消滅する。もっとも未履行の遺贈を求めるものに対してはいつでも主張可能である(抗弁権の永久性)

減殺請求権の期間の制限
第千四十二条  減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
⇒後段は除斥期間である。「知った時」の解釈としては、贈与や遺贈が自己の遺留分額を侵害し減殺の対象になることまで認識していることが必要である。

◆遺留分減殺請求権の行使の効果として生じた目的物の返還請求権等は、この消滅時効に服しない。(最判昭57・3・4)
◆遺留分権利者が、減殺すべき贈与の無効を訴訟上主張していても、被相続人の財産のほとんど全部が贈与されたことを認識していたときは、その無効を信じていたため減殺請求権を行使しなかったことにもっともと認められる特段の事情のない限り、右贈与が減殺できることを知っていたと推認するのが相当である。(最判昭57・11・12)

◆遺留分減殺の対象としての要件を満たす贈与を受けた者が、右贈与に基づいて目的物の占有を取得し、民法一六二条所定の期間、平穏かつ公然にこれを継続し、取得時効を援用したとしても、右贈与に対する減殺請求による遺留分権利者への右目的物についての権利の帰属は妨げられない。平成11年6月24日最高裁

(8)権利の濫用による行使制限

被相続人と遺留分権利者との間に信頼関係が破壊されるような事情があれば、相続廃除に類するものとして制限されよう。

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