遺産分割方法と手続きを揉めないようにする方法があるのか
1.遺産分割の方法
共同相続における遺産の共有関係を解消し、遺産を構成する個々の財産を各相続人に分配する手続きが遺産分割である。
その結果、共有関係になる場合もあろう。
また、現物をそのまま配分する現物分割、遺産を売却してその代金を配分する換価分割、現物を特定の者が取得し、取得者は他の相続人にその具体的相続分に応じて金銭を支払う代償分割の方法がある。
当職は、遺言執行の現場で、最も換価分割が多い。
もっとも、これらが困難な時はやはり共有関係になる。
しかしながら、一般に共有関係は暫定的な処置であって、いつかは解消すべきものなので、なるべくは避けるのが賢明であろう。
また、土地はAに、家屋はBに、現金はCにといった遺産分割の方法を遺言で指定もできる。
もっとも、共同相続人全員の合意があれば、遺言と異なる遺産分割も可能である。
(遺産の分割の基準)
第九百六条 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。
2.遺産分割の時期
遺産分割は遺産分割の禁止がない限り、いつでも可能である。
(遺産の分割の協議又は審判等)
第九百七条 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の分割をすることができる。
2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。
3 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、その分割を禁ずることができる。
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
第九百八条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
⇒他に、共同相続人全員の合意で遺産分割を禁止することも可能である。
(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
3.遺産分割手続き
誰が=相続人の範囲、
何を=遺産の範囲、
どのような割合で=指定相続分・法定相続分を特別受益・寄与分で修正した具体的相続分、
どのように分けるか=分割方法
が遺産分割の基本的な流れである。
相続人の範囲および相続分の確定
⇒ 遺産の範囲の確定
⇒ 遺産の評価
⇒ 特別受益者とその額の確定
⇒ 寄与相続人と寄与分の確定
⇒ 特別受益及び寄与分を踏まえた相続開始時における具体的相続分の確定
⇒ 具体的相続分の割合に基づく遺産分割時における遺産分割取得分額の産出
⇒ 具体的な遺産分割の決定
4.一人でできる預金口座の調査
被相続人の家屋や現金・通帳を事実上管理している相続人がいる場合に、他の相続人はその額がなかなかわからない。
私もそうであったが、現金は特にそうである。
預金については、次の2つの最高裁判決によって救済される。
つまり、相続人は被相続人の預金口座の取引経過を知ることができ、共同相続人が侵奪の疑いがあれば不法行為による損害賠償訴訟さえ起こせば、その怪しい相続人の預金口座の取引経歴を知ることができるのである。
◆預金者の共同相続人の一人は、他の共同相続人全員の同意がない場合であっても、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる。(最判平21・1・22民集63-1-228)
◆顧客の取引明細書について、金融機関の守秘義務の対象とならない場合には、提出義務が認められる。(最決平19・12・11民集61-9-3364)