相続法改正で影響を受ける遺言実務の基礎知識(2020年全面施行)その2

1.相続法改正で公正証書遺言の優位性は高まったか

(1)公正証書遺言の執行の迅速性

公正証書遺言は、遺言者の死後、家庭裁判所で検認手続をする必要がないため、相続人は速やかに預貯金や不動産などの相続手続が行える。遺言執行者が定められている場合は、ただちに遺言執行者が執行を開始でき、その際、遺言執行者は、相続人に遺言の内容を盛り込んだ就任通知を送付したうえで、遺産目録を作成する。

当職では、ほぼ1~2週間でこれまでこの2つの実務をやってきている。

今回の法改正で、899の2条によれば、「不動産をAに相続させる」との遺言があった場合でも、執行前に相続人Bがその不動産のうちの法定相続分の登記をして自分の持分を第三者に売却すれば、Aは第三者に自分が権利者だと対抗できなくなり、これまでの実務が大きく変更した。

したがって、迅速に遺言を執行する必要性が高まったので、公正証書遺言は家庭裁判所の検認手続で時間がとられる自筆証書遺言よりも、速やかに執行が可能であり、そのような視野を含んだ公正証書遺言を作成しておく必要が相当高くなった。

なお、「秘密証書遺言」は、遺言をする人が、自ら作成し、封印した遺言書を公証役場に持参したうえで、証人2人の立合いのもと、公証人に認証に準ずる手続をしてもらうが、署名を除いて文面を自筆で書く必要がなく、パソコンでも作成可能な点が自筆証書遺言との違いであったが、今回の相続法改正により、自筆証書遺言の財産目録は自筆以外で作成できるようになったので、あまり差異がなくなった。検認手続も必要である。

(2)特別方式の遺言の経験

つい先ごろ、特別方式の遺言書を相談に持ってこられた方があった。金額は、億単位で、急に病気が悪化して死期が迫ってきたのだ。全く予期しない巨額の全財産相続であったようだ。

この時に、親族が伝手を辿って弁護士の手配をして、下記の民法の規定に従って遺言をしたのだ。筆跡の荒さが当時の状況を物語っていた遺言書であった。

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第九七六条(死亡の危急に迫った者の遺言)
疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。

4 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
5 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

第九八三条(特別の方式による遺言の効力)
第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。

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遺言後に間もなくお亡くなりになられたので983条の無効適用はなかった。

この場合に、口授して一人の弁護士が全財産をA氏に相続させるとなって書いたものだった。財産の多さも驚いたが、当職は病院など以外で遺言書を作成したことがなかったので、これはあり得ることだと持った次第である。

また、新型コロナウイルスが中国の武漢で2019年末に発生してパンデミックとなったが、次の条文も機能するときがあるだろう。

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第九七七条(伝染病隔離者の遺言)
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

第九七八条(在船者の遺言)
船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。

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後者は大型クルーズ船は換気が非常に悪いので伝染病が蔓延しやすく、今後利用があり得るであろう。

伝染病隔離者の場合は、病気が隔離する病気なので人を多く当てられず、私の見た3人の弁護士の証人がそろいにくく、警官と医師や看護師となろう。

弁護士などはアドバイス的に関与するしかないであろう。医師資格ある弁護士は別である。

これらの危急時遺言や隔絶地遺言は、経験のない法律家はほぼないとしか言っていないが、当職はプロボラとして法律相談を無料で15年間やっているので、その功があって実物を見ている。

「経験のないものの言葉を信じるな」漱石

2.遺言が破られるとき

(1)公正証書遺言でさえも有効性の有無が訴訟になり得る

①遺留分減殺請求⇒改正法で遺留分金銭債権請求権

これは、特別受益があるからと遺言書を作成した場合に、相続人が否認してくる場合である。

②遺言能力

これは、署名もしているにもかかわらず、能力がなかったと言ってくる場合である。

この2つの場合があるが、そもそも元裁判官や検事が公証人になっており、偶々そこに当職のような相続法に詳しい法律家が入っていない場合に稀に発生する。

(2)複数の(自筆)遺言書の発生

遺言書はいつでも書き換えられるので、遺言書の考えが変われば、内容も変えたくなって、遺言書を書き換える。当職もこれはしばしば経験してきた。多い話である。確実に特定の相続人に財産を承継させたいのなら、生前贈与はもちろん、死因贈与や家族信託など別の方法も検討すべきだろう。

この場合に、やはり京都のかばん屋さん事件のように複数の遺言書が出てきて相続人が混乱することもある。 公正証書遺言ならば必ずそうするが自筆証書遺言を作り直すときにも、「これまでに作成した遺言書はすべて撤回する」と書いたうえで、前に作った遺言書を破り捨ててしまうべきであろう。履歴が残らないのが自筆証書遺言の大きな問題点であろう。

この場合に、終活や相続の説明会などで「エンディングノート」を勧めるが、生兵法は大怪我のもとである。

そもそも、「エンディングノート」があれば遺言の代わりになると信じている人がいるが、あり得ない。滅多にないことであるが、誰に何を相続させたいかという希望を書く欄があって、自分の意思をはっきりした形で残しておき、日付を書いて署名押印をしてあるときに、法律上自筆証書遺言になることがあるが、「エンディングノート」は法律上の意思よりも本人の希望であってどこまで行っても「エンディングノート」は「エンディングノート」に過ぎない。遺言書作成後、エンディングノートの記述を削除したほうがよい。

(3)法定相続人全員の合意で、遺言を「反故」にすることができるか

いつも不満な相続人はこれを主張してくる、例えば、‥

⇒以下はその3をご覧ください。

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