相続法改正で影響を受ける遺言実務の基礎知識(2020年全面施行)その3

2.遺言が破られるとき

(1)公正証書遺言でさえも有効性の有無が訴訟になり得る(承前)

(2)複数の(自筆)遺言書の発生(承前)

(3)法定相続人全員の合意で、遺言を「反故」にすることができるか

結論的言うと、できる場合とできない場合がある。できない場合の代表例は、受遺者が法定相続人以外でいる場合である。

判例では、「遺言の内容が相続分および分割方法の指定である場合は、遺産分割協議が遺言執行者の遺言の執行を妨げるものでないのであるから、遺言執行者には遺産分割協議の内容に立ち入る権利も義務もなく、遺言執行者には遺産分割協議の無効を確認する利益は認められない」とするものがある(東京地判平成10・ 7 ・31
、控訴審の東京高判平成11・2・17も同旨)。

これでは、声の大きい相続人が得をすることになってしまうのでないか。遺言の効力を薄める法律論を展開することは、そもそも自分の財産をどのように処理するかは本人の自由である憲法29条から当職は疑問を禁じ得ない。

やはり、改正された信託法の家族信託や遺言執行人に適任者を当てておくしかなかろう。

(4)死後、事実上遺言が発見されない

自筆証書遺言の場合、原本が1通しかないので、本や書類の間に挟まって行方不明になりやすく、また公正証書遺言でさえあっても、手元に正本や謄本がない場合、相続人がわざわざ公証役場に問い合わせてみなければ事実上遺言はないことになろう。

また、考えなくないことであるが、死後、自筆証書遺言を相続人が見つけて、内容を読んだら自分に都合が悪いことが書いてあったので、ひそかに破棄・隠匿するということも考えられる。

自筆であれば、遺言の中の文字を、「一」から「二」に書き換えるなど、改ざんするのも容易である。

そこで、今回の相続法改正に併せて自筆証書遺言を法務局で保管する、「法務局における遺言書の保管等に関す
る法律」ができたが、2020年からの施行が始まらないとこれらの不正に対応できるか評価のしようがない。

(5)成年後見制度による事実上の遺言内容変更

成年後見人は、被後見人のすべての財産の管理権を有し、しかもこの管理権は、単なる保存管理だけでなく、処分権を有すると解される。この処分権は、簡単には行使できないが、せっかく遺言で、例えば不動産を「誰々に相続させる(遺贈する)」としていても、被後見人の介護費用を捻出するなどの理由で、後見人が売却してしまう可能性がある。不動産を相続する予定だった相続人は遺言に納得できない場合が多いであろう。

完全に防ぐことは難しいが、一定程度防止するのに信頼できる方と契約する任意後見制度や信託契約を利用する方法もある。

なお、頻発に発生している親族後見人等による横領等の不正行為を防止するために創設された後見制度支援信託制度もあるが、信託銀行等にある通常使用しない金銭(当初は1000万円、現在はおおよそ500万円以上)も使われれば同じことである。

(6)相続の効力等に関する対抗要件制度

繰り返し述べたように、遺言の効力が弱く、また自筆証書遺言ではおそらく紛争がかなり出てくると思われる。 詳しくは下記を参照。

https://inherit21.com/succession-of-real-estate-rights-and-requirements-for-competition/

3.自筆証書遺言に関する法改正と問題点

(1)自筆証書遺言の方式緩和

法改正により、自筆証書遺言の財産目録については、自筆でなくてパソコン等で作成したものでもよくなったが、真正に作成されたものであることの立証責任は誰にあるのか。この立証は容易ではないだろう。

疑われないようにするために、財産目録については、追加記載を許すような無駄な空きスベースが出ないように工夫する。また、署名・押印は、すべて遺言の本文で使用したのと同じ筆記用具と印鑑を使用し、署名の字体を統一する。作成日の記載は法的な要件ではないが、記載が望ましい。契印や割印(割りサイン)も忘れないようにする。財産の記載は出来るだけ具体的に、「自宅敷地建物及び隣接土地」、「○○マンション」のように記載する。財産目録を書き直した場合は、書き直した理由も付言事項などに書いておくとよい。

(2)法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設

法務省の最も詳しい説明サイト ⇒ http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

法務局で保管された自筆証書遺言については、家庭裁判所の検認手続を要しないことになり、大きな実務の変更点である。

他にも、遺言書を紛失したり、あるいは相続人によって隠匿、改ざんされたりするおそれや、複数の遺言書の作成による真正性をめぐって深刻な紛争が生じる可能性リスクが減少する。

自筆証書遺言を法務局で保管してもらうための手続は、遺言者の住所地・本籍地・遺言者が所有している不動産の所在地のいずれかを管轄する法務局で遺言者本人が行う。その際に封筒に入れないで法務省令で定める様式に従って作成しておく(保管法4条2項)。遺言者は、マイナンバーカード等持参し、本人以外の者による遺言書保管の申請、すなわち代理人や使者による遺言書保管の申請は認めらないことに注意する。

病気などのため遺言者自らが遺言書保管所に出頭できない場合は、この保管制度の利用はできないので、遺言作成したときは公証人に病院などに出張してもらって公正証書遺言を作成することになる。

保管および管理は、遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに、その画像情報等の遺言書に
係る情報を管理する。記載情報等は、一定限度で電子データでも保管される。

遺言者は、保管されている遺言書について、閲覧を請求することができ、また、遺言保管の申請を撤回することもできる。

遺言者の死後、相続人や受遺者となっている人が、自分の関係する自筆証書遺言が法務局に保管されているかどうか知りたいときは、法務局で、遺言書の有無の確認をすることができる。もし保管されている場合は、
遺言書保管ファイルに記録されている保管場所や保管番号、遺言書の作成年月日が記載された書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができる(保管法10条1項)。全国どこの保管法務局に対しても請求できる。

相続人や受遺者、遺言執行者等は、遺言書が保管されている保管法務局が判明した場合は、保管法務局に赴き、保管されている当該遺言書の原本の閲覧を請求することができる(保管法9条3項)。

しかしながら、実務上は一体誰が、相続人の情報を取得し、保管法務局に提供するのか。相続人であれば他の相続人の情報を入手できるだろうが、第三者である受遺者や遺言執行者等は、現行の法制度では相続人の情報(戸籍謄本や附票、除籍謄本など)を取得することは不可能である(弁護士等の職務請求除く)。

そもそも、相続人はともかく、相続人以外の第三者が、どうやって法務局に保管されている他人の自筆証書遺言の中で、自分のことが書かれているのか把握できるのか。

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