「遺留分」の正確な実務計算は専門家でも間違うほど難しいというが…

1.遺留分とは

遺留分制度を民法は1028条以下で定めている。

配偶者や子等一定範囲の相続人に、被相続人の財産の一定割合について相続権を保障している。

その部分が遺留分で、その法的地位が遺留分権である。

その余の部分は自由分である。

自由分を超えて贈与や遺贈があれば、効力を奪う権利が遺留分減殺請求権で遺留分権利者はその行使が自由である。

推定相続人の期待権や生活保障さらには財産形成への寄与に根拠を持つが、実務上は不合理で不当な遺言から法定相続人の権利を守る点にあろう。

もっとも、いたずらな権利主張に対しては、遺留分減殺請求権の対象にならない特段の事情があるとする判例がある。

民法は、相続開始前の遺留分の放棄を家裁の許可の下で認めている。1000件程が1年間にある。

遺留分の放棄
第千四十三条  相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2  共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

相続の放棄の場合は他の相続人の遺留分が増えるのと異なる点に注意が必要であろう。

許可が認められるには、

権利者の自由意思があること、

 放棄理由に必要性や合理性があること、

 放棄と引き換えに代償があるかなど

が基準になっている。

許可の取り消しもある(家事事件手続法78条)。

 

◆中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律

経営の承継に伴い、(1)相続税及び贈与税の負担、(2)事業承継時の資金調達難、(3)民法上の遺留分による制約、といった様々な問題が発生しており、これら諸問題に対応するため、「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(中小企業経営承継円滑化法)」が平成20年10月1日(民法の特定に関する規定は平成21年3月1日)から施行された。
このうち遺留分に関する民法の特例は一定の要件を満たす後継者が、遺留分権利者全員との合意及び所用の手続きを経ることを前提に、民法の特例の適用を受けることができる制度である。
2011年に19件あった。

 

2.遺留分権利者と遺留分の割合

遺留分の帰属及びその割合
第千二十八条  兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。
一  直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一
二  前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

ここで定めているのは、遺留分権利者全員に残されるべき相続財産に対する割合である総体的遺留分であり、これに各自の法定相続分を掛けたものが個別的遺留分である。

子の代襲相続人は被代襲者であること同じ遺留分を有するが、相続欠格・相続廃除・相続放棄によって相続権を有しないものは遺留分もない。

3.遺留分額の算定

(1)民法の規定

遺留分の算定
第千二十九条  遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除して、これを算定する。
2  条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。
第千三十条  贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。

特別受益者の相続分
第九百三条  共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2  遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。
3  被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に違反しない範囲内で、その効力を有する。

第九百四条  前条に規定する贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的である財産が滅失し、又はその価格の増減があったときであっても、相続開始の時においてなお原状のままであるものとみなしてこれを定める。

◆遺留分算定の基礎となる財産に特別受益として加えられる贈与財産が金銭である場合、相続開始時の貨幣価値に換算した価額をもって評価するのが相当である。(最判昭51・3・18)

代襲相続及び相続分の規定の準用
第千四十四条  第八百八十七条第二項及び第三項、第九百条、第九百一条、第九百三条並びに第九百四条の規定は、遺留分について準用する。

(2)遺留分算定の基礎になる財産

遺留分算定の基礎になる財産=

 ①相続開始時に被相続人が有した積極財産+②被相続人が贈与した財産-③債務の全額

(3)具体的遺留分額

具体的遺留分額=

 遺留分算定の基礎になる財産×個別的遺留分の割合-(遺留分権利者が取得済みの特別受益の価額+遺留分権利者が受けた遺贈額)

(4)被相続人が贈与した財産

上記の②被相続人が贈与した財産は4つある。

・相続開始前の1年間になされた贈与(財団法人設立のための寄付行為、無償の債務免除を含む)、

・遺留分権利者に損害を与えることを知ってなされた贈与(加害意図までは不要で、遺留分を侵害するという認識があればよい)、

・共同相続人への特別受益の贈与(時期や侵害の認識など不要で、持ち戻しの免除されていても含む。また、特段の事情のない限りすべて減殺対象となると判例はする)、

・不相当な対価でなされた有償処分

の4つである。

不相当な対価による有償行為
第千三十九条  不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。

(5)債務の全額

上記の③債務の全額は、税金等の公法上の債務も含むが原則として保証債務は含まない。

個別の遺留分算定額では法定相続分で計算するが、

相続させる遺言で判例は、「相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされた場合には,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,相続人間においては当該相続人が相続債務もすべて承継したと解され,遺留分の侵害額の算定に当たり,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されない。(最判平成21年3月24日)」とする。

 

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