高齢者の遺言でトラブルが続出しているが遺言能力がなくて遺言事項でない遺言をなぜするのだろうか

近時の判例では、自筆証書遺言はもちろん、公正証書遺言であってさえも高齢者の遺言でトラブルが続出しているが、元検事や裁判官の公証人が関わっているのに、遺言能力がなくてしかも遺言事項でない遺言書がなぜ発生するのだろうか。

相続に関わる人が、超高齢化社会で不動産業者や銀行等を含め多くなってきていることも原因だろうが、相続の専門家の立場から、遺言の基本である遺言能力、高齢者の遺言の判例傾向、遺言できる事項等を以下に述べる。

1.遺言とは

遺言は、法律的には、民法が認める「人の最終意思について死後に効力を発生させる制度」である。

その人の意思に法が効力を認めるので、「意思能力」が必要である。これを「遺言能力」という。

また、相手方のない単独行為に法が一定の効力を認めるので「遺言事項の法定」がなされている。

また、紛争を避けるために「遺言の方式」が決まっている。

死後に効力が発生するので、生前には「遺言撤回の自由」がある。

しかし、「遺言内容と異なる遺産分割」が相続人全員で可能なことや一定範囲の相続人には遺産の一定の割合が認められる「遺留分制度」があって、その範囲で意思は制限されていることに十分に注意する必要があろう。

2.遺言の利用実態は?

家庭裁判所の遺言検認申立件数:2011年は15,113件で急激に増加している。公正証書遺言も増加し、2012年は88,156件になっている。信託銀行の遺言書保管件数も、2012年に7万件以上ある。

 

3.高齢者の遺言能力についての基準と判例

(1)遺言能力とは?

遺言能力とは、遺言内容を理解し、遺言の結果を弁識しうるに足る意思能力のことである。

民法に定義規定はないが、死後に効力が発生するので、行為者の保護を目的とした行為能力制度の適用はない(民法962条)。

「第九百六十一条  十五歳に達した者は、遺言をすることができる。」

「第九百六十三条  遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。」ので、実際に遺言をするときに遺言能力が必要になる。

そこで、遺言時に本当に遺言能力があったのかの争いがとても多い。

なぜか公正証書遺言でもそうである。

遺言内容との関係で個別的で相対的に判断するしかなく、判定基準は総合的にならざるを得ない。

(2)有効性の判断ポイント

①遺言者の精神状態

②遺言内容と作成の経緯

③遺言内容が比較的簡単

④医師の診断書

遺言能力を肯定した裁判例は、遺言内容が「概括的」ないし「単純」であることを考慮して、その程度の内容については遺言者は理解していたとして遺言能力を認めている。

逆に、否定例は、「遺言内容がかなり詳細で多岐にわたる」こと、内容が「単純でない」こと、遺言内容が「重大な結果」をもたらすものであることを考慮して、遺言者がそれを理解していたとは認められず遺言は無効だとしている。

※「高齢者の遺言能力」鹿野 菜穂子 論文参照(立命館法学一九九六年五号)参照

4.遺言できる事項(法的効果が発生する事項)は何か

(1)民法の規定

寄付行為(41条2項) 認知(781条2項) 後見人指定(839条1項) 後見監督人指定(848条)廃除(893条) 廃除の取消し(894条2項) 祭祀承継者の指定(897条1項) 相続分の指定・指定の委託(902条)特別受益の持戻免除(903条3項)遺産分割方法の指定・指定の委託(908条) 遺産分割の禁止(908条) 共同相続人間の担保責任の指定(914条) 遺贈(964条)受遺者が負担付遺贈を放棄した場合の指示(1002条2項)負担付遺贈の目的物が価格減少した場合の指示(1003条) 遺言執行者の指定・指定の委託(1006条) 遺贈の減殺方法の指定(1034条)

(2)民法以外の法律

保険金受取人の指定・変更(商675・676条) 信託設定(信託2条)

 

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